2015年12月16日

失敗、トラブルが多い人にかぎってできてない!?

丁寧な「要件定義」がWebディレクターの武器になる

丁寧な「要件定義」がWebディレクターの武器になる

Webディレクターの毎日は、協力的でものわかりのいいクライアントとスムーズにやりとりしながら、クオリティの高い制作物を完成させていく……なんて順風満帆なことばかりではありません。
 
むしろ「クライアントの要望がどんどん増えて困った」「言った、言わないでモメた」「炎上した」、挙句の果てに、スタッフは徹夜でボロボロ、お金も請求できなかった……そんなトラブルの数々に頭を抱えることのほうが多いかもしれません。
 
しかし、前回の記事にも登場した『失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエと実践』(ワークスコーポレーション)の著者・みどりかわえみこさんによると、トラブルを避けながら制作物のクオリティも上げられる、とっておきの方法があるのだそう。
 
それは、「きちんと要件定義を行う」こと。
 
行ったことがないという人も、行ってはいるけど「本当に必要なのかイマイチ分からない」という人も、今一度要件定義について学んでみましょう。

 

1
~今さら聞けない!? イロハのイ~
そもそも要件定義って何だ?

 

要件定義をひと言で表すと、「発注者の与件や要望を明らかにし、リソースとのバランスを考慮した上で、目的を達成するために何をすべきかを明文化すること」です。
 
要件定義は制作物の土台であり、心臓となる部分。それをもとにヒト・モノ・カネ・スケジュールが決まり、設計や制作へと引き継がれていきます。要件定義は完了すればおしまい、ではなく関係者(発注者・制作者の両方)にきちんと認識されてはじめて機能することを忘れないでください。」(みどりかわさん)

 

●スタート地点で土台を固めよ

企業の存在意義、使命、目的、目標を明確に!
 

例えば、食品メーカーでクッキングサイトを開設する場合を考えてみましょう。
まず、下記のような要件定義が必要になってきます。

出典:『失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエとその実践』

・存在意義:食を通じて多くの家族を幸せにする
・使命:主婦の炊事の負担を減らし、かつ満足度の高いメニューを提供する
・目的:自社製品で主婦が楽に夕飯を作ることのできるクッキングサイトを開設
・目標:主婦のユーザーを1日1万人呼び込む
・与件:30~40代の既婚者にユーザーになってもらう、レシピには自社製品を含める

 

ここで、「存在意義」「使命」まで定義する必要があるの?と考える人もいるかしれません。
 
しかし、「他社と差別化したい」「うちの会社だからこそできることをしたい」と考えたとき、さらにはプロジェクト進行中に、「本当にこのサービスは必要なのか?」等の迷いが生じたときはどうでしょう?
 
みどりかわさんは、「『そもそもあなたの会社は何ですか?』『誰に向けて何がしたいのですか?』というコアとなる部分がはっきりしていれば、いつでも振り返って正解を知ることができます」と、これらを定義する必要性を説きます。

 

●どうやって作る? 

要件定義は3つのSTEPでスムーズに

出典:『失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエとその実践』

STEP1
情報収集……ヒアリングにより、発注者からの与件や要望をもれなく聞き出す
STEP2
整理・分析……要件を重要度に分けて取捨選択
STEP3
文書化……要件定義書を作成
 
STEP1
情報収集……ヒアリングにより、発注者からの与件や要望をもれなく聞き出す 
 

ここで注意してほしいのは、制作に必要な情報を聞き漏らさないようにと必死になって、納期やシステムなどの細かい話にばかり終始しないこと。そればかりだとクライアント側は「難しい話ばっかり」「詰問されているみたいだ」と感じてしまうかもしれません。
 
みどりかわさんは「ヒアリングでは、大→小、ざっくりとした夢のある話→こまかい・リアルな話、へと聞いていくのがコツ」だと言います。
 
大きな話、というのは、上記の表で言えば、会社の存在意義や使命のこと。
 
「『そんな壮大な話、自分にできるかな?』と思うかもしれませんが、クライアントの担当者と話をする際には、『どうして今の会社に就職したのか』『社風や使命に惹かれて入ったのか』などといった質問から始めてみましょう。そうすれば、話す側は自分の原点に立ち返り、会社の存在意義や使命を再確認しながら、制作についての話に入ることができます。
 
必要な情報を押さえるだけでなく、担当者に『このプロジェクトを頑張ろう』とヤル気を持ってもらうのにも有効な手段です」(みどりかわさん)

 
STEP2
整理・分析……要件を重要度に分けて取捨選択

この過程では、情報を整理しながら発注者の与件に対して、こちら側のリソース(費用・時間・人材等)で実現できるか否かを明確にします。
 
「要件とリソースのバランスを曖昧にしたままでいると、後になって納期が遅れる、要望通りの成果物が上げられない、といった問題が生じる原因になります」(みどりかわさん)

 
STEP3
文書化……要件定義書を作成

Web制作において、トラブルの原因となるのは、要望の変更や追加、期間や予算オーバー。そして「言った、言わない」で揉めることも多々あります。
 
しかし、要件定義を文書化しておくことで情報を参照できるため、建設的に調整・議論ができ、自分を守ることもできます。
 
「また、文書化したら必ずクライアントに見せて、承認してもらうことも大切です。とくに見積もりや工数に関わる書面はバージョン管理も重要。いつの時点で発行されたもので、誰が合意を取ったのか? 日付や「●●会社●●様承認済み」という文言をつけて、先方にも送っておきましょう」(みどりかわさん)
 

 
●不足しても、ムダになっても困る!

要件定義には何を盛り込むべき?

 

要件定義は内容が不足していてもトラブルの種となりますし、詰め込みすぎると労力の無駄となってしまいます。
 
プロジェクトの大小や種類によっても異なりますが、押さえておくべき基本をリスト化してみました。要件定義書の書式、構成はそれぞれですが、7W2H+2を意識して構成しましょう。
 

要件定義の土台となる7W2H+2

要件定義でカバーする項目

 
 
●こんなとき役立つ!

シーン別・要件定義を100%生かす方法

 

ここまで読んでみて、要件定義を行うのは「やっぱり手間がかかるな」と思った方もいるかもしれません。
 
しかし、要件定義があることでトラブルを避けることができ、作業がラクになる場合もあります。
いくつか例を見てみましょう。
 
<トラブル事例1>

△制作物のトーンやターゲットがバラバラ……

「プロジェクトの途中で担当者が異動or退職した」「担当者が思い付きでブレたアイデアを出してくる」……。そんな経験はありませんか?
 
いろいろな意見に振り回されると、デザインやターゲットに一貫性のない制作物ができてしまったり、最後の最後で大きな修正が入ってしまったりする可能性があります。
 
しかし、要件定義さえしっかりしていれば不測の事態に陥っても、「要件定義では●●となっていましたが、要件に沿わせませんか?」と担当者を説得し、もとの軸に立ち返ることができるのです。
 
<トラブル事例2>

△スケジュール管理がめちゃくちゃに……

ほとんどのWebディレクターが、2つ以上のプロジェクトに平行して携わっていることでしょう。あまりにも忙しかったり、違うプロジェクトでトラブルが発生したりすると、スケジュール管理がおろそかになることもあるかもしれません。
 
そんなとき、プロジェクトのマイルストーン(プロジェクトの中の主な節目)を記した要件定義があれば、今どの工程で、自分が何をやるべきかを一目で把握することができます。
 
<トラブル事例3>

△制作スタッフがいっぱい。発注する際に、時間も手間もかかる……

Webディレクターは、デザイナー、エンジニア、ライターなど、多くのスタッフに発注する作業をこなさなくてはなりません。その上プロジェクトについて、正しく要約して発注しないと成果物に影響が出てしまいます。
 
しかし、きちんと情報が整理された要件定義があれば、イチから発注資料をおこさなくても大丈夫。各スタッフに必要な部分だけをピックアップして、渡せばいいのです。
 
「例えばデザイナーさんがバナーを作成するとき、デザイナーさんとしては、『何の目的でこのバナーを作るのか? 誰がターゲットなのか?』といった土台部分を知ることが必要になってきます。これらのことを要件定義に記載しておけば、制作の途中で『本当にこれでいいのか?』と迷ったとき、いつでも原点に立ち返り、正解を確認することができるのです。
 
そのため、私はデザイナーさんに仕事を依頼する際には、ラフや期日などとともに、上記の要件定義の表の7W2H+2からWhat、Why、Whomなど、デザイナーさんに必要な要素を要約して伝えるようにしています。それは他のスタッフに関しても同様です」(みどりかわさん)

 

2
~要件定義をスムーズに成功させる~
プラスαの上級テクがあった!

 
 
●忙しい、時間がない相手からヒアリングするコツは?

“カッコイイ演説”と“穴埋め方式”で対応せよ!

 
「15分の演説時間を用意」

要件定義を完成させるには、じっくりヒアリングする時間が必要になってきます。
 
しかし、受託のみならず社内開発にもいえることですが、部長クラス以上の人は常に忙しく、ヒアリングしようにもなかなか捕まらないといった悩みもあるでしょう。そんなときはどう対応すればいいのでしょうか?
 
『キックオフのミーティングをやります』と、15分だけでも時間をもらうようにします。そして、『このプロジェクトの目的が何なのか、まだ見えていない部分があるので不安です。このままブレて行くとよくないと思うので、どうか話を聞かせてください』とお願いしてみてください。『ここは俺の出番かな?』と気を良くしたクライアントや上司が、気持ち良く語ってくれるはずです」(みどりかわさん)
 

スピーチが苦手な人には
穴埋め式で

ただし、スピーチが苦手な人が相手の場合は、事前に書面を渡しておく方法がベター。

 

このサービスは(例:働く主婦)のために(例:簡単なレシピ)を提供します。
 
それによって(例:自社製品)の売り上げを伸ばし、(例:企業名)は利益を出します。
 
と、回答部分を空欄にしておいて、事前に書いてもらうのです。
 
こうすれば、スピーチが苦手な人にも正確なヒアリングを行うことができるでしょう。

 
●要件定義書を読んでもらえない!

相手のモチベーションを上げる提案書の作り方とは?

 
「誰にどこを読んでもらいたいのか」を明確にする

プロジェクトの規模が大きく、条件がたくさんある場合は要件定義書も分厚くなります。
 
「『うわっ、読む気がしない!』と思われないためには、Web担当者が読む部分と経営者が読む部分、そしてシステム担当者が確認する部分など、担当ごとに異なる色や印をつけておくといいでしょう。
 
さらに、目次に★などのマークをつけて、各担当に『★部分は重点的に見ていただいて、あとは軽く流し読みしてください』というふうに伝えると、『全部読まないといけないのか』という相手の心的負担を減らすことができます。
 
また、必要なところを確実に読んでもらえる、という効果も見込めます」(みどりかわさん)

 

分かりやすく、メンテしやすい書式で

Wordで文章をつらつらと書いているだけだと、契約書のようで読みにくく、後からメンテナンスしにくいものになってしまいます。
 
「このような事態を防ぐため、リスト化できるのものはExcelで、概要的なものや忙しい人に3分で見て決定してもらうようなものはPowerPointで作成するなど、目的に沿ったアプリケーションを使うことをおすすめします。文字は大きく読みやすい書体で入力し、適宜改行するなど、誰にとっても読みやすい文書になるよう心がけましょう」(みどりかわさん)

 
●「何度も何度も変更が入る……」

あとで振り回されないための要件定義って? 

 
スケジュールは綿密に。修正事項もきめ細かく。

どんなに要件定義が完成度の高いものでも、制作過程で変更が生じるのは致し方のないこと。とはいえ、あまりにも変更が多いと、工数にも金額にも大きな影響が出てしまいますね。
 
そのため、要件定義には詳細なスケジュールや修正の回数、変更や修正が多くなった場合の条件(期間や追加費用など)も記しておきたいものです。
 
また、「ちょっとした文字修正ならいいでしょ?」と言われたとしても、単なるテキストの修正か、システムにも影響が出るステータス部分の文字修正かでも手間は大きく異なります。
 
みどりかわさんは、「項目のなかでも、あとで変更できるもの、できないものについて説明しておくこと。さらに、『いつまでに指摘してくだされば変えられます』というように、期限を明確にすることも大切です」と言います。
 
・変更できない、あるいはしにくいもの
仕様、システム、サイトアドレス、サイト全体の色調設計
・変更、入れ替えできるもの
コンテンツの数、写真やイラスト、ライティング担当のスタッフなど

 
「変更させないゾ」という脅しになってはいけない

「変更事項について、クラインアントに伝えるのは何だか気まずい」、そう思う人もいるかもしれません。
 
「確かに、修正するとお金がこんなにかかる、納期が遅れる、という点を強調すると相手もあまりいい気がしないですね。『このぺージは2週間で作りますが、デザインは3日くらいで出し戻しするので、この期間で回せるのは2サイクルまでです。それ以上の修正は納期に関わり、料金もオーバーしてしまいます』といった風に、スケジュールと絡めて伝えるとよいでしょう。 
 
そうすることでクライアントに『コイツ、締め切りと金の話ばかりして脅しやがる』という印象を与えず、尚かつ変更条件についても正確に伝えることができるのです」(みどりかわさん)
 
 


多くのプロジェクトを手掛けるなかで、「要件定義」の必要性を実感してきたというみどりかわさん。
「制作がスタートしてから『これは違う!』ということになると、修正には莫大なコストかかってしまいます。だからこそ、準備段階で時間がかかっても、丁寧な要件定義を行う必要があるのです。最初は関係者に面倒と思われることもあるかも知れません。でも、ここでがんばったことがのちのち効いてきて『しっかり決めておいてよかった』と評価され、信頼を得ることも可能になりますよ」(みどりかわさん)
 
プロジェクトの要であり、土台となる「要件定義」。
この記事で紹介したことを参考にして、みなさんもプロジェクトを成功へと導いていただけければ幸いです。

 
 

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