デザインノート編集長 三嶋康次郎氏×PIXTA 岡洋介氏 「現代クリエイターの新しい活躍の仕方」
現在デザイナーやイラストレーターとして活動しているクリエイター、あるいは広告・デザイン業界で働きたいと考えている学生の中には、クリエイターとしての働き方、今後のキャリアの積み方について悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
そこで、「Creator’s Value」「PIXTA」「レバテック」の3サービスによるイラスト素材公募展「Creative Seeds Award 2016」の開催を記念し、クリエイター専門誌「デザインノート」「イラストノート」編集長の三嶋康次郎さんと、写真・イラスト・動画素材サイト「PIXTA」を運営するコンテンツ本部・クオリティー・インプルーブメント・グループリーダーの岡洋介さんの特別対談を実施しました。
「現代クリエイターの新しい活躍の仕方」をテーマに、リーマン・ショック前後に起きた広告・デザイン業界の変化や現代で活躍できるクリエイターの特徴、クリエイターとしてのキャリアの選び方など、幅広くお話を伺いました。
数々のトップクリエイターの仕事を間近に見てきた三嶋さんと、写真やイラスト、動画素材の販売で、クリエイターに新しい活躍の場を提供している岡さんならでは視点は、今後、広告・デザイン業界で活躍していきたい方に新しい気づきを与えてくれるはずです。
記事の最後には「Creative Seeds Award 2016」の募集要項も掲載していますので、自身の作品を世の中に広めるチャンスを掴みたい方は、ぜひご応募ください。
三嶋 康次郎(みしま こうじろう)さん
1962年大阪府出身。広告制作会社を経て、2002年に誠文堂新光社入社。現在はクリエイター専門誌「デザインノート」や「イラストノート」の編集長を務めている。そのほか、ビジネスや食、ペット、介護など幅広いジャンルの書籍も手がける。社内ベンチャーとして「デジタル・ピクチャーズ」という、ゲームや映像などのデジタルコンテンツ制作・管理の事業も運営する。
岡 洋介(おか ようすけ)さん
1975年千葉県出身。大学卒業後、情報関連機器の販売会社に勤務し、2006年にピクスタ株式会社入社。国内クリエイターのサポートや営業業務を通して黎明期のピクスタを支える。2013年にシンガポールの子会社設立に参画し、2015年からは再び国内クリエイターの支援活動に従事。現在はクオリティー・インプルーブメント・グループリーダーとして、コンテンツ審査と海外クリエイターの活動支援に力を入れている。
インタビュアー
濱田 元紀(はまだ げんき)
美術大学卒業後、制作会社での勤務を経て2015年にレバレジーズ(現レバテック)入社。レバテッククリエイターの営業として、クリエイティブ領域における現場とクリエイターのマッチングに励んでいる。趣味はゲームと映画鑑賞。
目次
- 「Creative Seeds Award 2016」を広告・デザイン業界のメインストリームに飛び込む足がかりにしてもらいたい
- リーマン・ショック以降、クリエイターに求められているのは物事の構想やプランニングをするデザイン思考力
- 現代で活躍するクリエイターに共通する、クライアント・ファースト思考
- クリエイターとして、未来の自分がどうありたいか。そのイメージを明確にして進むべき道を決める
「Creative Seeds Award 2016」を広告・デザイン業界のメインストリームに飛び込む足がかりにしてもらいたい
-今回のイラスト素材公募展「Creative Seeds Award 2016」の入賞作品は、誠文堂新光社が始めた新しいサービス「Creator's Value(クリエイターズ・バリュー)」の広告制作に採用されますが、そもそも「Creator's Value」とはどういったサービスなのでしょうか。
三嶋康次郎氏(以下、三嶋):「Creator's Value」はWeb×誌面を利用した会員制のクリエイターサポート・サービスで、クリエイターと仕事を繋げるハブのような役割にしたいという思いで立ち上げました。
「Creator's Value」に登録すると、自分の作品を「デザインノート」や「イラストノート」誌上で発表できたり、Web上に自分の作品を公開できるマイページを持てたりするようになります。発表した作品をきっかけに、クリエイター自身が望むような仕事との出会いをサポートしていきたいと考えています。
弊社は「アイデア」や「デザインノート」、「イラストノート」といったクリエイター向けの雑誌を数十年に渡って作り続けてきましたが、リーマン・ショック前後でデザインという仕事の形やクリエイター自身の人格が変化してきていることをひしひしと感じていました。
インターネットやソーシャルといった分野がどんどん拡張し、仕事の形が多様化して仕事を得る手段もずいぶん増えた一方で、良い仕事に出会えていないクリエイターがたくさんいる現状があります。そういったクリエイターの方たちに、「Creator's Value」を通して新しい活躍の場を見つけてもらいたいですね。
-「Creative Seeds Award 2016」を開催しようと思ったきっかけは何だったのでしょう。
三嶋:日本の広告・デザイン業界には、明確なヒエラルキーがあるんですね。業界のメインストリームとなるようなデザインの仕事は、いわゆる大手の広告代理店が受け持つという構造がもう古くから出来上がっています。そうなると、最初にそのトップ層に入れなかった人たちは、才能があったとしても仕事のチャンスそのものが与えられにくいんです。
今回の「Creative Seeds Award 2016」では、才能を持ちながらもチャンスに恵まれてこなかった人に、表舞台に立つきっかけを掴んでもらいたいと思っています。若手クリエイターにとって、大塚いちおさんや甲谷一さん、内田喜基さんという有名なアートディレクターに作品を選んでもらえる機会はとても貴重です。
さらに、日本のデザイン業界に存在し続ける慣習として、プロフィールを重んじるところが強く感じられます。クリエイターが過去にどんな賞を受賞しているかをとても重要視するんですよ。だから、今回の公募展を通して日本のトップアートディレクターとコラボレーションしたという実績が、次の仕事に繋がっていく可能性は大いにあると思います。
-今回の「Creative Seeds Award 2016」はPIXTAへの素材投稿を通してエントリーする仕組みになっていますが、どういった方からの応募を期待していますか?
岡洋介氏(以下、岡):先ほど三嶋さんもおっしゃったように、まだ世に知られていない新しい才能の芽を見つけたいという思いが第一にあります。
そもそもPIXTAというサービスは経歴や肩書き、時間や場所に関係なく、作品の力だけで勝負する「個人の才能を発揮できる場所」を提供するために生まれました。そんな我々の思いと「Creator's Value」の思いの共鳴から、この公募展が立ち上がったという経緯があります。「Creative Seeds Award 2016」を自分の才能を開花させるひとつの機会としてとらえ、プロ・アマを問わず、現在PIXTAでイラストを販売しているクリエイターはもちろん、PIXTAを知らない人にも参加していただきたいですね。
また、応募イラストはPIXTAで素材として販売もされます。イラスト素材は購入者のニーズが高いので、自分が手がけたイラストがどのような層に求められ、受け入れられるのか、市場における自分の作品の需要を知り学ぶ機会にもなります。弊社としても、公募展をきっかけに今までのストックにはない幅広いテイストの作品を世の中に届けていければと思っています。
リーマン・ショック以降、クリエイターに求められているのは物事の構想やプランニングをするデザイン思考力
岡:先ほどのお話の中で、リーマン・ショック前後でデザインの仕事やクリエイター自身が変化したというのは、具体的にはどういったところでしょうか。
三嶋:リーマン・ショックの少し前、2000年前後から、ネットバブルで紙メディアの衰退とネットメディアの繁栄が進み、メディアのありかたに変化が訪れていました。だからリーマン・ショックだけでは語れないんですが、大手代理店のクリエイターいわく、80年代後半のバブル崩壊では業界への痛手はそれほどなかったそうなんですよ。でも、リーマン・ショックのときは大手ですら会社が潰れるんじゃないかと思ったそうです。そのぐらい売り上げを落としたんですね。
だからそこで、「広告ってなんだろう」「デザインって必要なんだろうか」ということが改めて広告・デザイン業界で問われることになりました。リーマン・ショックで売上げが下がるということは、不況になったら世の中に必要ないと判断されるということですからね。
デザイン業界は今も昔もトップの企業、大手広告代理店から制作会社などへ仕事が降りてくという構造があります。だから、上がダメだと下は崩壊するんです。そういった不況の波が、あの頃のデザイン業界には一気に押し寄せていました。
岡:PIXTAは2006年にスタートしたサービスですが、リーマン・ショックが起こった2008年9月以降、正確に言えば日本にその余波が訪れた2009年以降に売り上げが伸びていきました。
三嶋:広告を安く作れるから(笑)。
岡:そうですね。企業がどんどん広告費をかけられなくなって、じゃあどこを削るかというと、広告に使う素材なんですね。そこで、弊社がやっているようなストックフォトやイラストの需要が高まっていきました。
三嶋:インターネットが普及してストックフォトというサービスが開始される以前から、雑誌ではレンタルフォトをよく使っていました。でも、1点借りるのに数万円かかっていたんですよ。
岡:そういう時代もありましたね。
三嶋:そんな、以前はプロユースでしかなかったものが、現在は誰でも販売・購入できる時代です。しかも、ストックフォトのような価格の安いものでも、決してプロの写真に見劣りしない質のいいものが出てきています。だったら購入する側も、安いほうを選びますよね。
岡:今はカメラの性能もいいので、誰でも情熱を持って努力すればクオリティの高い写真が撮れますからね。イラストもそうです。
三嶋: 誰もがクリエイターになれる時代だからこそ、今のクリエイターは依頼に対して質の高いアウトプットをするだけでなく、そのもっと前段階、物事を構想したりプランニングしたりという、問題解決につながるデザイン思考ができる人が求められるようになってきています。安く、質の高いデザインを提供するクリエイターが多く活躍する現代において、周囲と差別化できる能力を持つことは非常に重要です。
現代で活躍するクリエイターに共通する、クライアント・ファースト思考
-デザイン業界にそういった変化が訪れる中で、今現在活躍しているクリエイターにはどういった特徴があるのでしょうか。
三嶋:例えば、「Creative Seeds Award 2016」の審査員のひとりである大塚いちおさん。彼はもともとイラストレーターですが、今はアートディレクターとしても活躍の場を広げています。彼のような人は、これからのクリエイターが目指すロールモデルとしてふさわしいと思いますね。
彼はイラストの仕事もたくさん受けていますが、自分で描くことそのものにこだわりを持っていません。クライアントのターゲットに刺さる表現であることを最優先させるので、たとえ最初の依頼が「ポスターにイラストを描く」というものであっても、「タイポグラフィだけの方が良い」と判断すればイラストは描かないんです。
イラストレーターだからイラストを描く、という職域にとらわれるのではなく、クライアントが求める成果に合わせてアートディレクションしていく。そういう立ち位置でイラストレーターも仕事ができるようになれば、より信頼度の高い仕事ができるようになるんじゃないでしょうか。
自分はイラストレーターだから、グラフィックデザイナーだから、と自分の立場を守ろうとするんじゃなくて、何がクライアントにとってベストであるかを言えるダイナミズムをクリエイターは持ったほうがいいと思いますね。
-PIXTAの場合はどうでしょう。実際に、ストックフォトやイラストの売り上げだけで生活している人はいるのでしょうか。
岡:いらっしゃいますよ。例えば、PIXTAに約6年前から写真をストックされていたカメラマンの方は、出産するにあたり、本業のカメラマンの仕事を半年間休業しましたが、その年がここ数年で一番収入が多かったと言っていました。ストックフォトはたくさん登録すればするほど販売確率が高まるので、6年間ストックしてきたものの成果があらわれたんですね。また、イラストレーターの中には、いろんなタッチで描き分けをし、幅広いジャンルのイラスト素材を販売して高い収益を上げている方もいらっしゃいます。
-1度売ったら終わりではなく、継続的に収入を得られる可能性があるわけですね。
岡:そうです。ストックの良いところは、自分が活動できない状況にあっても、作品のストックさえしておけば販売し続けることができる点です。軌道に乗るまでは地道に研究と投稿を繰り返すことが必要ですが、ノルマも納期もないので自分のペースで継続することができます。
そうやって、最初はほかの仕事と兼業でストック登録を続け、売り上げが安定してから専業に切り替えた方もいます。
-そういったストックの売り上げだけで生活ができるクリエイターは、先ほどの三嶋さんのお話にあったように、クライアント、つまりPIXTAのユーザーがどんな写真やイラストを求めているのか、といったことを考えているのでしょうか。
岡:かなり考えていますね。売れているクリエイターは、今世の中では何が起こっているのか、何がトレンドなのかを知るために新聞やニュースを欠かさずチェックして、その時々でどんな素材にニーズがあるのかを探っています。
-今だと、実際にどういったものが売れているんでしょうか。
岡:2016年でいうと、電力自由化をテーマにしたイラストなどはよく売れていますね。電力自由化は様々な業界が新規参入してくる事業なので、企業はたくさんの広告を打ちます。そうなると、広告に使うイメージが求められることをクリエイターは予想できるわけです。社会情勢を読み解き、市場が動きそうなところに対して的確な素材を提供できるクリエイターは活躍しています。
クリエイターとして、未来の自分がどうありたいか。そのイメージを明確にして進むべき道を決める
-今お二人が話されたクライアント・ファーストな思考は、仕事をする上では非常に大切ですが、クリエイターの中には自分の個性を活かしたイラストを描きたい、自分はこれがやりたいという気持ちが強い方もいるのではないでしょうか。
三嶋:自分の職能を活かしたクリエイターになりたい人と、イラストなどをフックにしてビジネスを成功させたい人、これらは分けて考えなければなりません。
本当にすばらしいイラストを描く人は、自分のイラストを極めていっていいと思うんです。最近のイラストレーターでいうなら、例えばカナヘイさん。カナヘイさんの描くイラストはカナヘイさんにしか描けないものです。彼女のように自分にしか生み出せない作品を作る、という選択肢もあっていいと思います。
でも、ビジネスとして成功させたいなら、クライアントの要求に答えることを最優先させなければいけません。それは商業デザインや商業イラストレーションに関わる人は必ず持っておかなければならない感覚です。
岡:そもそもの目的が違うんだと思います。いいイラストを描く、いい写真を撮ることが目的の人と、クライアントの課題を解決することが目的の人。前者は質の高い作品をひたすら追求するけれど、後者は写真やイラストはクリエイティブ表現の手段にすぎません。
三嶋:そういった意味では、デザイン業界にもいわゆる美大卒じゃない人たちがどんどん進出してきています。アートディレクターとして活躍している人の中には、一般大学出身の人が多く見られるようになりました。彼らが共通して持っているのは、ロジカルな思考力と他人を説得させられるプレゼン力なんですよ。
Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズだって、彼が持っていたのは圧倒的な美意識とプレゼン力です。自分自身にデザインスキルがなくても、良いものを見抜く力、その良さを伝える力に長けていれば、プロダクトのデザイン性を評価される世界一の会社にできるということです。
-なるほど。ただ、これは多くのクリエイターが悩むところかもしれないですね。自分のやりたいことを貫きたいけれど、生活するにはお金が必要だから、ビジネスとしての成功も無視できません。
三嶋:“自分の核となるような何か”を持っているということは、この業界で長く活動していく上では必要なことです。「私にはイラストを描く技術がある」と思えていれば、仕事がうまくいかなくなったときにも自分の原点に立ち戻ることができます。
だけどそこに固執してしまうと、刻一刻と変わっていく時代の中で、自分の作風が流行から外れて取り残されてしまう可能性があります。だから、長く活躍したいなら広い視野を持って、いろんなことに挑戦していったほうがいいです。今はデザインが得意でイラストも描ける、なんて人もたくさんいます。いきなりアートディレクションとまではいかなくても、隣接したスキルを高めて職域を広げていくのもいいのではないかと思います。
岡:最終的には、自分がどのレイヤーで食べていくかということですよね。
三嶋:そうですね。どのレイヤーの、どのポジションで活動していくのかでやるべきことは大きく変わってきます。ビジネスを成功させてお金持ちになりたいのか、好きな絵やデザインの仕事をしたいのかで、全く違いますよね。
どこを自分の着地点にするか、というだけの話です。40、50歳になったとき自分はどうありたいか、そのイメージを明確にしてこれからのクリエイターは進むべき道を決めたらいいと思います。
広告ビジュアル用イラスト素材公募展
「Creative Seeds Award 2016」作品募集中!
「Creator’s Value」「レバテック」「PIXTA」の3サービスがタッグを組んで開催する、イラスト素材投稿型の公募展です。選ばれたイラストは、アートディレクター・大塚いちお氏、甲谷一氏、内田喜基氏が手がける「Creator’s Value」の広告の素材として採用されます。詳しい応募方法はこちらをご確認ください。応募締切りは2016年8月31日(水)です。
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