在宅ワークでは得られなかった、企業常駐案件の面白みとは?
39歳クリエイターが、約6年の在宅ワークから企業常駐案件に参画して得られたこと
プロフィール
名前:高田 大二(たかだ だいじ)さん
職業:イラストレーター
フリーランス歴:約7年(在宅:約6年、常駐:約9ヶ月)
年齢:39
性別:男性
美大卒業後に入社した商社を、約10年間勤めた後に退社し、フリーランスのイラストレーターとして活躍している高田さん。商社時代は管理職経験もあり、部署の粗利を200%増にしたこともあると語る高田さんが、なぜフリーランスのイラストレーターになったのか。
また、フリーランスとして独立後はずっと在宅案件ばかりを請け負っていたというが、現在では大手IT企業の人気ソーシャルゲーム案件へ、企業常駐で参画しているという。幅広いワークスタイルを経験している高田さんに、現在に至るまでのご経験を伺った。
※この記事は2016年5月時点の内容です
フリーランス イラストレーター 髙田大二さんの経歴
2000年3月に多摩美術大学を卒業。同年4月にSI事業を柱とする商社へ入社し、契約監理課にて勤務する。同社で15人のチームをまとめる管理職を務める傍ら、在職中にイラストレーターとして依頼をこなし始める。2009年10月にフリーランスの在宅イラストレーターとして独立し、トレーディングカードやゲーム系をはじめ、多くのイラストを手がける。2015年8月からは、大手IT企業の人気ソーシャルゲーム案件へ企業常駐で参画。背景セクション、キャラクターセクションにて、イラスト作成と外注の管理業務に携わる。
商社へ勤めながらイラストレーターも兼業していた10年間
―フリーランスになる前のお仕事をお聞かせください。
高田氏:2000年4月に新卒で商社へ入社し、約10年間、契約監理課で勤務をしていました。就活していた当時は、将来的にイラストレーターとして独立したいという思いがあったため、できればゲーム会社などのスキルアップにつながる企業へ入りたいと思っていました。ですが、僕が就職活動を行っていたころは就職氷河期でしたので思うようにいかず、巡り巡って商社へ入社しました。
―約10年間と比較的長く勤めた会社を離れた理由は何だったのでしょうか。
高田氏:やはり、フリーのイラストレーターとしてやっていきたかった、というのが大きいです。商社では大量の書類をさばくのが主な仕事で、イラストに全く関係ないと思っていましたから。
実は在職中から美大時代の友人つながりでイラストの依頼を紹介してもらっていまして、会社員とイラストレーターを兼業でやっていました。残業が少ない会社を選んだので、土日以外に帰宅後もイラスト作業を行うことができていたんです。
ですが会社で転勤があり、片道30分だった通勤時間が片道1時間30分に伸びたことで、平日の作業時間を取りにくくなったことがネックになりました。その頃来ていた依頼の量としても、イラストレーター一本でやっていくのに十分な目処が立っていましたので、2009年10月にフリーランスとして独立することにしました。
―会社を辞めるにあたって、ご家族から反対はされませんでしたか?
商社時代は幹部候補だったが、仕事は楽しめていなかったと語る高田氏
高田氏:妻には結婚する際に「いつかは独立する」ということを伝えてありましたので、引き止められることはありませんでした。もっと言うと、妻はもともと漫画家として活動をしていて、妻も僕もお互いにアシスタントをしていかないと作業が回らない状態になっていたんです。そのため、スムーズに会社を辞められましたね。
在宅ワークで広がった人脈&スキルアップの時間を獲得
―実際にフリーランスとして独立することで、どのような変化がありましたか?
高田氏:商社時代はそこそこ年収がありましたが、フリーランスになったばかりの頃は若干下がりましたね。ただ、イラストレーターとしての仕事量は増やせますし、妻と二人で働いていれば収入は全然問題ありませんでした。むしろ、人との出会いも広がりましたし、スキルアップにあてる時間も取れるようになったので、トータルでは大きなプラスに感じています。
―フリーランスになって初めて請けた案件はどんなものでしたか。
高田氏:携帯ゲーム機用の対戦型カードゲームソフト向けに、キャラクターイラストを描く案件でした。毎月10枚くらいのイラストを納品するのを半年以上やっていました。
半年~1年単位で毎月●本納品するという案件は、ゲーム系だとけっこうありまして。作業をするとしたら、クライアントのオフィスへ打ち合わせにいかなければならないんです。会社勤めをしながらですと、なかなか打ち合わせへ行くのは難しいですから、独立したことでそういったボリュームのある案件を請けられるようになったのは、大きな変化でしょうか。メールで打ち合わせが済むような案件ですと、どうしても小規模になりがちですからね。
―他に変化を感じた点はありますか?
高田氏:一番良かったのは、キャリアプランをじっくり考えて動けるという点ですね。イラストレーターとしてやっていく上で、1年後、2年後、…、と先を見据えたスキルアップが欠かせません。兼業のときは、どうしても目の前の作業をこなすのに精一杯でした。
フリーランスになってからは、スキルアップ――興味のあったジャンルの勉強をする時間を取れるようになりましたし、ポートフォリオを充実させたり、人脈を広げたりもできるようになったので満足しています。
「フリーランスになったことでクオリティを高める余裕もできた」とのこと
―反対に、フリーランスになって苦労したこともあるのでは?
高田氏:会社がやってくれていたこと、たとえば毎月請求書を作るなどの経理などを、すべて1人でやらなければならないのはやはり大変です。会社勤めなら、こういったことは会社が全部やってくれるし、毎月お金も入ってくると考えると、楽ではあったと思います。仕事のやりがいをあまり見出せなかったということを除けば、ですが(笑)。
―経理などの事務以外にも営業も自分でやらなければなりませんよね。営業活動はどのようにされているのですか?
高田氏:クリエイターですので、基本的にはポートフォリオを作って持ち込みですね。最近はいただいた依頼をお断りするケースも出てきているのですが、できれば新しいクライアントはどんどん開拓していきたいと思っています。
あとは美大時代のつながりで、案件をもらうことも多いですね。友人・先輩・後輩などから「君はこのジャンルが得意そうだから」ともらったり、反対に自分からも紹介したりと。業界自体にも美大出身の方がたくさんいらっしゃるので、その縁でもつながりができたりもします。
もちろんコネクションだけではなくスキルも大切なんですが、発注者側としては「絵はうまいけど、身元がよくわからない人」には依頼しづらいでしょうから。こちらとしても知人・友人に紹介されて請けた案件は、その人の顔もありますので普段以上に力も入りますしね。
自分の絵にフィードバックをくれる友人は、スキル向上の面でも大切だという
―案件を請けるためには、人脈が大切なんですね。他に普段から意識されていることはありますか?
高田氏:イラストレーターはアーティストではないので、クライアントの求めるイラストを納品するということが前提としてあります。ですが本当に大切なのは、クライアントが想定しているユーザーを満足させるイラストを描くことなんです。この点を意識して描くようになってから、案件が途絶えなくなっていきましたね。
―そのことに気付いたのは、どういった経緯からでしたか?
高田氏:Twitterでユーザーの声が見られるようになったのが大きいですね。それ以前は、自分が手がけたイラストに対するユーザーの声を知ることは、ほとんどありませんでした。ですので、自分としては80点ぐらいの出来でも、「クライアントが満足しているからいいじゃん」とすら若いころは思っていました。
Twitterが普及したことで、ダイレクトに「あの絵、良かったよね」という声が聞こえてくるようになり、意識が大きく変わりましたね。自分が関わった商品のユーザーに「コレ買って損したな…」と思わせたくない、満足させるためにはどうしたらいいかを考えるようになったんです。
―なるほど。スキルアップのためにやっていることはなんでしょうか?
高田氏:まず情報収集はめちゃくちゃやっていますね。たとえば、流行っている作品のチェックはもちろん、新しく出たソフトウェアの使い方なども押さえるようにしています。
厚塗り、アニメ塗り、水彩塗りと幅広いテイストの塗りを得意とする高田さん
そのほか、トレンドを追うだけでなく最近では基礎練もやるようになりました。というのも、僕の場合、美大時代は基礎の研鑽をサボっていたというのもありまして(笑)。20年ぶりくらいに立方体を本気で描いたりしましたね。直近だと、背景の描き方を基礎から学ぶために、住んでいる茨城から原宿にある教室に通ったりもしたり。
今の自分の仕事を見ると、表面上のテクニックでごまかしている部分がかなりあると感じていて。基礎の基礎から見なおすと必要があるなと。
―とても勤勉なんですね。つらいと思ったりはしませんか?
高田氏:僕個人の目標としては「自分の絵がうまくなること」以外に興味がないので、つらいという意識はありませんね。周りを見ても、レベルが高い方たちは「スキルアップのために勉強しています」という意識でやっている人はいません。「好きなことを仕事にすると、楽しくないよ」と言う人もいますが、「仕事だから勉強しなくちゃ」という意識でやるとつらくて続かないと思いますよ。
レバテックで企業常駐のワークスタイルを初体験
―高田さんはフリーランスになられてから、在宅で順調に案件を請けてきたようですが、レバテックで常駐案件を請けるようになったのはなぜでしょうか?
高田氏:子どもが生まれたので、保育園に入れたかったというのが理由にあります。保育園の入園審査では、親が在宅で仕事をしている家庭よりも、会社勤めをしている家庭を優先する傾向があるようでして。僕たちの場合、夫婦ふたりともフリーランス&在宅でやっていたからか、子どもを保育園に入れられなかったんですね。
そうしたときに、フリーランスでも企業に常駐して作業するというワークスタイルがあることを知り、また、そういった案件を紹介するレバテックのサービスを知りまして。在宅ではなく、企業で作業をする形でしたら保育園へ入れられるかなと考えたんです。実際はレバテックを利用する前に保育園の空きが出たので、子どもを入れられたんですが(笑)
―そうだったんですね(笑)。でも、保育園の問題がクリアされたのでしたら、レバテックを利用しなくてもよかったのでは?
高田氏:ずっと在宅で作業をしていたので、企業常駐でゲーム制作会社の中の仕組みを見ておくのも面白いかなと思ったんです。現場を知っておけば、イラストの案件を請ける際にも理解度が上がるかなと。
―レバテックを使って印象に残っていることはありますか。
高田氏:3ヶ月に1回くらいの頻度で、担当フォロワーの人がじっくり話を聞いてくれる機会があるのは良かったなと感じます。今の参画先には、他のサービスを利用している派遣・フリーランスの方もいますが、「担当とのヒアリングなんて5分ぐらいで終わりだよ」「ランチでのフォロワーヒアリングなんてないよ」と羨ましがられることもありましたしね。
―高田さんは2015年8月から、某大手IT企業の人気ソーシャルゲーム案件へ、イラストレーターとして参画されていると聞いています。どういった作業を担当しているでしょうか?
高田氏:主に背景セクションを担当していて、自分で描くのと外注のディレクションとを3:7ぐらいの割合でやっています。他にキャラクターセクションにも関わっていますね。
やってみて思ったのは、商社時代に大量の契約書をさばいたり、部下のマネジメントをしていた経験が活きているというのが面白いなと。たとえば、「このタイミングで派遣の方を何人入れて、シフトを組んで、作業着手はいつで…」といったことを商社時代にやっていましたが、今の参画先でやっている外注の進行管理などで、そういった過去の経験が大いに活きていますね。それまでは、「10年間の商社での経験はムダだったかな…」とすら思っていましたので、役に立って嬉しかったです。
―参画先ではイラスト以外の作業の割合が多いようですが、その点はいかがでしょうか?
参画先では高田さんが社内勉強会を開催する機会もあるという
高田氏:今は「もう少し描きたい」という気持ちと「もう少しディレクション業務をやりたい」という気持ちが両方ありますね。在宅での案件でイラストを描けているので、せっかく企業常駐でやっているのだから「むしろ上流工程を経験しておきたい」と思ってきています。
―そう思うようになったのはなぜでしょうか。
高田氏:「イラストを描く以外でもやっていける」と道が広がったことで、安心につながった感がありますね。
僕個人の目標としては、“絵描き”としての道を極めていきたいと考えています。とはいえ、フリーランスでやっていると、どうしても将来への不安も出てきます。体力や感性がこの先10年後、15年後も維持できるのかと。
そんな中、もしイラストで稼げなくなっても、ディレクションの実績があればキャリアプランの選択肢が広がるんじゃないかと思うようにもなったんです。現場を見る限り、イラストにも、ディレクション業務にも強みがあるクリエイティブディレクターは需要がありそうですからね。
常に知識やマインドのアップデートを意識しているという
フリーランスは案件のあてをできるだけ持っておくべき
―フリーランスになろうと考えている方へ、高田さんからアドバイスをいただけますか?
高田氏:フリーランスになるとローンが組みにくくなるので、家や車などを買うならば会社員のうちに買っておいた方がいいでしょうね。僕自身は辞める前にマンションを購入しておいたのですが、フリーランスの友人らには「欲しいと思っているけど、ローンが組めない」という声をよく聞いていますので。
―なるほど。それでは、フリーランスになってからはどういうことに気をつけるべきでしょうか?
高田氏:案件のあてをたくさん持っておくことですね。僕の事例でいうと、東日本大震災のときは年間所得にして200万円程度下がりました。他にも、継続してもらえていた案件が、企業合併によって途絶えてしまったこともあります。こうした不可抗力で案件がなくなることは往々にしてありますので、人とのつながりを増やすなり、業界の動向に注目するなどして備えておきたいですね。